症例8 歯科矯正により犬歯の抜髄回避

 右下にはインプラントが装着されており、長い間自分の歯が上下にある左側ばかりで咀嚼していた。そのためか、左上4、5の歯の動揺が増し、連結固定が必要になった。また、左下3にも2次的な虫歯が生じ、左下ブリッジの再作製も必要になったので、この際左側の上下顎にコーヌス義歯を装着することにした。ここでは特に、左下3が前方に傾斜していることが問題となった。
 義歯は通常咬合平面に対して、垂直方向に着脱することが原則である。下顎左側だけでみると、元々ブリッジが入っているので、着脱方向を前方に傾斜すれば補綴物の装着は可能である。しかし、将来右下との連携が必要になったとき、着脱方向を咬合平面に垂直にしておくほうが望ましい。
 スライド上段の模型の赤塗り部分を削去すればよいのだが、そうなると抜髄は必須である。将来左下5を失うことがあっても、左下3が有髄歯のまま保存できていれば、十分義歯で対応できる。そこで何としても左下3の抜髄を避けたかった。まず2015年6月、ミニインプラントを固定源に用いることで、遠心方向への整直を開始し た。8月、遠心への整直は完了し、暫く保定した。
 ところが、2016年1月、仮歯を外してみると今度は頰側に倒れているのに気が付いた。そこでもう一度、舌側に傾斜移動を行った。3月、舌側への移動が終了し た。私の拙い治療で治療期間が長くなってしまい、本当に申し訳ないと思う。
 2016年8月、左下3を抜髄することなしに、コーヌス義歯を装着することができた。