予防

■ 予防診療について

・歯の健康を第一に考えるには、治療(cure)だけでなく「予防(care)を中心とした診療」も同様に大切です。そういった思いから、当クリニックでは、治療とハッキリ区別した予防のための「ケアルーム」を併設しています。ここは、治療前後のケアはもちろんのこと、歯や口の中の不安について何でもご相談いただける場所として機能しております。

・以下は、ケアルームで行っている予防診療についての主な説明です。また、予防に関する動画ファイルがありますので、併せてご覧下さい。

■ バイオフィルムとは?

 

・バイオフィルム。身近なところで言えば、水気のある台所の三角コーナーや風呂桶等、そこにこびりついているネバネバ・ヌルヌルしたものがバイオフィルムです。
・バイ菌がネバネバの多糖体を作り、物体の表面を覆っているのです。また、このネバネバが傘の役目(カプセル)をしているため、洗剤や殺菌剤を用いるだけでは薬剤が中に浸透せず、膜の中の多数のバイ菌を除くことはできません。タワシでゴシゴシ擦って初めて落とすことができるのです。
・歯の表面でも同様のことが言えます。このバイオフィルムのことを歯科では、歯垢(プラーク)と呼んでいます。
・ムシ歯を引き起こす原因菌は数多く存在しますが、ネバネバの多糖体を作る代表選手がミュータンス菌といいます。
・ミュータンス菌は砂糖を分解し、強い酸とネバネバ(多糖体)を作ります。そしてこのネバネバがカプセルを作り、内部に無数のバイ菌を繁殖させるのです。
・さて、カプセルの中で作られた酸は、唾液が届きにくくなっているために、酸の濃度は濃くなり、この強酸によってエナメル質のミネラル(カルシウム、リン等)が溶け出します。これを「脱灰」といい、すなわちムシ歯の原因です。しかし、ブラッシングによりバイオフィルムを取り除ければ、唾液中のミネラルにより再石灰化が生じます。治療だけでなく当クリニックで「正しいブラッシング」の指導に力を入れているのはそのためです。

■ ブラッシング指導

・ブラッシングの目的は食べカスでなく口の中のバイ菌(歯垢、プラーク、バイオフィルム)を取ることです。患者さんに歯垢を見せ、「これは何だと思いますか?」と質問しても、バイ菌とすぐに答えられる人はほとんどいません。
・すなわち大多数の患者さんはブラッシングの目的をわからずにいたのです。しかし、知ったからといってすぐにみがけるようになるかというとそれも否です。
・まずご自身の口腔内を理解していただき、つぎにライフスタイルに合せたブラッシング指導を行うことにより、適切な習慣形成ができるよう手助けすることが大事です。
・さて、当クリニックのブラッシング指導のポイントは主に以下の3点です。


1)位相差顕微鏡を用いて、患者さん自身の歯垢、すなわち動き回っているバイ菌を実際に見ていただきます。
2)ブラッシングには十分時間をかける必要があることから、「ながら磨き」を推奨します。これは、テレビを見ながら、読書しながら、入浴しながら等の「ながら」です。洗面所で立って磨いたのではとかく早く磨き終えようとしてしまうため、十分な時間がとれません。この「ながら」を行うためには、歯磨剤をつけないことがポイントです。しかし、「ながら」で時間をかけるのは1日のうち就寝前の1回でよく、朝、昼は歯磨剤を用い、食べカスを取るぐらいのつもりでよしとします。さらに、効果的なブラッシングのポイントとして、
3)ブラッシング前後で「歯の表面を舌の先でなめてみる」ことです。歯垢がついているとヌルヌルしているので、このヌルヌルがとれるまでブラッシングを行います。舌のセンサーとしての働きを増すためにも歯磨剤は使用しない方が良い。この舌の先の感覚を理解することが、実は最もブラッシングの向上に繋がります。

■ PMTC

 

・バイ菌は日々歯の表面にカプセル状の厚い膜=バイオフィルムをつくります。毎日のブラッシングで、この膜を機械的に取り除かねばなりません。しかし、なかなか完全に行うことは不可能です。
・そこでバイオフィルムの破壊、除去を目的として、歯科衛生士が行うプロの掃除=PMTC(Professional Mechanical Tooth Cleaning)が欠かせません。
・歯科衛生士は、専用の器械に研磨剤をつけて、歯の表面がツルツルになるまで磨いてくれます。もちろん痛くもありませんし、ウトウトするぐらい気持ちの良いものです。
・なお、ここで大事なことは、ブラッシング後同様、最後に舌で歯の表面をなめて、このツルツル感を感じとっていただき日々のご自分の「ブラッシングのゴール」を理解していただくことです。

■ フッ素塗布

 

・フッ素は、歯の質を強くし、ムシ歯に対する抵抗力を高めます。すなわち、
1)歯の表面を酸に溶けにくくし、強い歯に変えていきます。
2)酸に侵されてムシ歯になりかかった部分を修復します。
3)ムシ歯菌が酸を作り、歯を溶かそうとする働きを弱めます。

・そこで、1)を目的とした方法として、診療室で歯科衛生士により直接歯の表面に比較的高濃度のフッ素を直接塗るトレー法があります。フッ素は歯の表面(エナメル質)に直接作用し、酸に溶けにくい結晶(フルオロアパタイト)を作ります。
・つぎに、2)および3)を目的とした方法として、自宅で行うフッ素洗口法(歯磨き粉を含む)があります。唾液中のミネラルにより再石灰化が生じるときに、唾液中にフッ素イオンがあるとフッ素を含む酸に強いフルオロアパタイトを作ることが可能です。持続的という観点からはフッ素洗口法の方がムシ歯予防効果は高いと考えられます。

■ 唾液検査

 

・唾液について以下の検査をすることでお口の中のムシ歯に対する将来の危険度を知ることができます。

1)唾液の分泌量…唾液は洗浄作用すなわちバイ菌が産生した酸を洗い流してくれる働きがあります。そこで、唾液の量が少ない人がムシ歯になりやすいといえます。
2)唾液の緩衝能…バイ菌が産生した酸を中和する能力のことです。また、飲食などで酸性に傾いた状態も中性に戻すことで、歯質を脱灰から再石灰化に導くことができます。
3)ミュータンス菌の数…ムシ歯の原因菌のひとつです。ミュータンス菌は砂糖を分解して、非常に強い酸とネバネバ(多糖体)を作ります。そしてこのネバネバがバイオフィルムのカプセルの素となります。さて、カプセルの中で作られた酸は、唾液によって拡散されにくくなっており、この強酸によってエナメル質が溶けていくのがムシ歯の始まりです。
4)乳酸桿菌…これもムシ歯の原因菌のひとつです。ミュータンス菌のようにネバネバを作りませんが、やはり糖分やデンプンを分解して強い酸を作ります。この乳酸桿菌の量は口の中の清掃度を反映すると言われています。

・以上4つの検査が主な目的です。

※現在、このシステムは健康保険に適用しておりません。

■ 歯周ポケット測定

 

・歯周病になると、歯と歯ぐきの隙間に深い溝ができます。これを歯周ポケットと呼びます。歯周ポケット内にバイオフィルムがあると歯周病が発症します。このバイオフィルムは前述したムシ歯の原因となるバイオフィルムとはバイ菌の種類が異なります。歯周病を引き起こす代表選手はAA菌およびPG菌等というもので、これらのバイ菌は酸素のないところで生育します。
・したがって、歯周ポケットが深くなるほど無酸素状態となり、このバイオフィルムによって、歯ぐきに炎症が起こり、歯を支えている歯槽骨が溶け、歯がグラグラになります。
・さて、歯周ポケットの溝の深さを測ることを歯周ポケット測定と呼びます。この歯周ポケットの深さが歯周病の度合いを示します。
・また測定時の歯周ポケットからの出血の有無で、今現在の歯ぐきの炎症の程度を知ることができます。測定時は若干の痛みがありますが、歯周病を診断するうえで、この検査は欠かすことができません。

■ スケーリング(ルート・プレーニング)

 

・歯に付着した歯石を取ることです。歯石はバイ菌の死骸等に、唾液中あるいは血液中のカルシウムやリンが沈着したもので、そのもの自体は歯周病を悪くしません。
・しかし、ゴツゴツの歯石はバイ菌が繁殖する絶好の住み家となってしまい、バイオフィルムを形成します。特に、歯周ポケット内のバイオフィルムは歯周病発症の一番大きな原因です。
・そこで歯科衛生士はキュレットという専門の器具を用い、歯周ポケット内の歯石を丹念に取り除きます。歯周ポケットが深く、歯石の量も多い場合は麻酔を打つ場合もあります。定期的に歯石を取り、バイオフィルムを破壊すれば歯周病を予防できます。