歯の神経(歯髄)をとらない
虫歯すなわちバイ菌の巣が大きくなり、歯の神経(歯髄)にバイ菌が侵入すると歯が痛くなります。虫歯が小さいうち、すなわち患者さんの自覚症状がないに時に治療すればほとんど問題が生じませんが、歯がしみるようになってから、あるいは歯が痛くなってからの場合は、歯の神経をとるべきであると考えていまし た。しかし今は極力とらないようにしています。理由は以下の2点です。
理由1 神経をとった後の歯の中(根管)の治療を100%完璧に行えないからです。根管は、例えていうと大通りと路地裏の小道に分かれており、治療は主に前者が中心となります。路地裏は薬剤に頼っているのですが、そこにもしもバイ菌が残っていたら、将来根の先に病巣を作る可能性があります。(症例1)
理由2 神経をとった後の歯はみずみずしさがなくなり、将来折れ易くなります(歯根破折)。神経のある歯での歯根破折は滅多にありませんが、神経のない歯の歯根破折は日常茶飯事です。(症例2)
以上の理由から、将来歯を失わないためには、歯の神経をとらないことが大切です。(症例3、症例4)
但し、刺激が加わらなくてもズキズキ痛むような歯で、明らかに手遅れの場合は神経をとらざるを得ません。そうでない場合は、経過をみた後、再び痛くなる可能性があることを患者さんに十分理解してもらった上で、神経を残すようにしています。
特に最近は症例5に示しますように、明らかに虫歯が深く、神経が露出する可能性が高いと思われる場合は、浸潤麻酔を用いず患者さんが我慢できるところまで、まず虫歯をとります。敢えて深いところの虫歯を残し、そこに薬剤を用います。薬剤の種類はタンニン・フッ化物合剤、MTAセメント、ドックベストセメント等色々あります。この状態で3ヵ月経過を観察します。薬剤は虫歯の無菌化、歯質の硬化および神経の退縮の効果を発揮します。つぎに、残しておいた虫歯を注意深く取り除きます。症例4は浸潤麻酔を用いていますので、患者さんが痛みを感じない分、つい深く削ってしまい、結果神経が出てしまうのに対し、症例5は神経がでないので、神経を保存できる可能性が格段に高くなります。この治療法は歯髄温存療法(AIPC)と呼ばれており、素晴らしい方法であると考えています。
症例6〜8は少々専門的ではあるが、興味ある人はぜひご覧下さい。