症例5 歯の神経を温存する治療

 2017年4月初診、33歳女性。左上の歯がしみるとの主訴で来院。デンタルX線写真から、左上4,5,6に虫歯が認められた。特に、左上5の遠心(白矢印 右から2番目)は、歯の神経(歯髄)に近接していた。麻酔下での虫歯の除去は、患者さんの知覚がないために歯の神経まで達してしまう危険がある。そこで、無麻酔下で患者さんが我慢できるところまでまず虫歯を除去した。(スライド中段左) つぎに、タンニン・フッ化物合剤(HY剤・ハイ-ボンド テンポラリーセメント ソフト)を貼付し、歯の神経を温存(歯髄温存療法・非侵襲性歯髄覆罩・AIPC)した。このケースでは接着性セメントにて緊密に閉鎖した。(スライド中段右) この状態で3ヵ月経過を観察。HY剤は、感染歯質の無菌化、歯質の硬化および歯の神経の退縮の効果が期待できる。これらの状態を確認し、さらに残存している虫歯を除去した。(スライド下段左) その後、通常どおり型を取って詰め物(インレー)を装着した。
 歯の神経をとった歯は、将来、細菌の取り残しから歯根の先に病巣が生じる危険があり、また歯質の弱体化から歯根破折が生じやすい。これらを予防するためには、なるべく歯の神経の保存に努めるべきである。