症例7 保存不可能と思われる歯を再植し、義歯の支台歯へ

 2016年3月初診の79歳、女性。右上3の冠が土台ごと外れ、義歯が安定しなくなったとのことで来院。上顎においては残存している歯を抜歯し、総義歯にする選択肢があった。顎の土手も優型であることから総義歯でも十分機能すると思われるが、口蓋を被うことになるので、異物感や発音障害が生じる可能性も考えられる等を説明したところ、患者さんはできるだけ歯を残して欲しいと希望された。

 まず右上3の歯を足し、つぎに同歯の感染根管治療を行った。その後、暫間のOリングアタッチメントを装着し、義歯の維持を担ってもらった。なお、アタッチメント根面板の所に保持を設け、ワイヤーを固定できるように細工しておいた。 以上準備が整ったところで、2016年6月に右上3および左上1を固定源として、右上1、2および左上3の再植を同時に行った。この際、歯肉の上に健康な歯質が得られるところまで挺出し、ワイヤーに固定した。 デンタルX線写真は、術後2ヵ月半の状態であるが、右上2の動揺は収まらなかった。また左上3の遠心に7mmの歯周ポケットが残ったため、同部の歯肉切除を行った。

 治療途中に骨折等で通院できず、治療期間は延びてしまったが、2017年12月に上下顎にコーヌス義歯を装着した。再植した右上2は動揺があるため側方力をかけないように根面板を装着するに留めた。左上3は若干の動揺が残ったため、少し丈の短い内冠を装着した。右上1は通常の内冠を装着した。なお、3本の再植歯の歯周ポケットは3mm以下に落ち着いた。

 2017年12月、初診終了時のデンタルX線写真およびパノラマX線写真。再植歯の歯根は短いが、歯根膜による歯槽骨の再生がみられた。あとは種々の力に対して抵抗できるか否かであるが、コーヌス冠による2次固定効果により残っている歯を束ねたことで、何とか持ちこたえるのではと期待している。