症例1 通常抜歯と思われる歯を保存

 2008年10月再初診、65歳女性。親の介護が終わり、本格的な治療を行いたいとのことであった。全体的に歯周病が進行していたが、ここでは右上2について述べ る。歯周ポケットは12mmあり、抜歯の可能性が非常に高かったが、本人の希望もあり、保存する方向で治療を進めた。2009年3月に、右上2の冠を除去し、下の歯と当たらないように細工し、この状態で暫く経過を観察した(専門的には自然的挺出)。なおこの間は、他の歯の治療を行っていた。2010年4月の時点で歯周ポケットはまだ10mm存在した。ここで外科的治療を行ったが、スライドに示すように、遠心側(右上3側)以外の歯槽骨はほとんど消失していた。しかし、同年10月の時点で歯周ポケットは5mmに減少した。もう1年経過を観察し、2011年11月、メタルボンドブリッジを装着した。2017年10月、歯肉は退縮してしまったが、歯周ポケットは3mm以下であり、問題なく経過している。
 本来、歯と歯肉は結合織性付着でくっついているが、歯周病を引き起こし、歯槽骨が吸収してしまった後は、上皮性付着で治癒することになる。組織学的には前者が好ましいが、臨床的には後者でも十分であると考えている。しかし、上皮性付着は剥がれやすいので、後のメインテナンスが大事である。